ハンサム★マンガ

skb_mate022005-01-21

「あなたの言う、そういう曇り空には、人の営みが一緒に思い浮かびませんか?」僕には彼の意図が読めない。僕がひねくれものなら、彼はかわりものだな。彼は続ける。
「ぼくが真っ青な空を思い浮かべるとき、そこには人も、街も、何の風景もない。ただ、青空が広がるだけです。」
(奴股『青空と曇り空のはなし』)

遠藤淑子 / ヘヴン
少なくとも、おれ自身の意識は生きたがっていないのだと思うけれど。細胞のひとつひとつが、生きるための努力をしているのだとしたら。こうして井戸を覗き込む、意味を見出せぬそんな行為すら愛おしい。その底で、誰かが泣いているかもしれないから。声をかけて、ロープを探すために走りたい。走っているあいだだけは、そして誰かがその端を握るロープを、全力で曵いているあいだだけは。自分も他人も赦せるような気がするから。
高屋奈月 / 翼を持つ者
悲しみは、喜びのためのスパイスなのだと誰かが言っていた。でも、人生のなかで、本当に悲しいことなんてそんなに多くない。たいていは、悔しい思いが受容体の手違いかなにかで、悲しみと呼ばれるなにかにすり代わっているだけなのだろう。きみがそう望むなら、おれは別にガレー船を漕いだってかまわない。本当は、どうだっていいんだ。海へ行きたかったわけじゃないんだ。アドリア海の魚たちがそう望むなら、いつか餌になってあげるよ。
須藤真澄 / アクアリウム
無力さに泣いていた。でもそれが、思い上がりなのだということもよくわかっていた。ポピュラスじゃあるまいし、神さまにはなれない。じゃあ、総理大臣とか?あんなの、ゴーレムじゃないか。そう吐き捨てることはたやすい。要は、おれが頑張れたのか頑張れなかったのか──それだけのことなのだ。あなたは、わかろうと努力したの?──わからない。ほんとうに、わからない。ただ、おれの代わりに誰かが生かされるのなら──とてもうれしい。
山名沢湖 / いちご実験室
ブルーカラーには、怪我がつきものだ。ハンマーで指を叩いてしまったり、足の上に鉄骨を落としてしまったり。そのたびに、イライラする。ほんとうは、いろんなことが重なった結果として、なのだろうけれど。そんなこと、その瞬間には考えられない。寒い時期には、いつも頭が痛くなる。そして錠剤を飲み下すたび、満月のような化合物を消化するたび、自分の弱さを思い出すことができる。ささやかだけれど、それは時に役立つのだと思う。
袴田めら / フェアリーアイドルかのん
プラスティックの塔をいくつも築いて、きみやおれは、それをラードでデコレーションする。ブクブクと肥え太った自意識から、黄色くてギトギトした脂肪が頭を突き出し──最初は針のように細く、だんだん太くなってゆく──腐った内臓を食い尽くし、まだ飢えを満たせぬ「俺」「私」たちが。鼻息を荒げながら、必死で穴を埋めようと「他人」の死体を投げ込むそのさまは。まったく、吐き気を催す。正気か?と問うことすら莫迦莫迦しくなる。