百合物件リスト:単行本〜シリーズ
とくに目新しいものなどは挙がっていないと思います。ここの管理人がどういったものを偏愛しているかを知る指標程度にご覧ください。
有吉京子『夢・メッセージ』
宝塚音楽学校をモデルにした青春サクセスもの。設定的に近似値の作品として、槙村さとる『鏡の中のアリス』が挙げられるけれども、そちらには百合を感じません。
「女が女にひかれるのはね、相手の内に自分が失くしてしまった少年の頃の記憶をみるから。まだどちらの性ももたない、中性的な身体、そして両方の性をも共有する、両性具有の魅力。そこへいきつく前の、どちらでもない時期が好き。あなたにひかれるのは、そういう身体をもっているから。本物の、ね」
篠有紀子『アルトの声の少女』
ボーイッシュで人気者の悠有と、彼女を取り巻く周囲との関係を描いた青春もの。好きだという気持ちにいつか終わりがくるのなら、はなから誰も好きになどならないと心に決めていた悠有の心をこじ開けていく麻美(やり方に問題はあるものの)に喝采を送りたいです。
「ずっと好きではいられないけど、私はずっと好きでいたい。それを理想というのなら、理想に手がとどくことはけっしてないけれど、それに近くなることはいくらでもできるんだ。そうだねきっと、そうでも考えなければ、とても生きてはゆけないよ」
みさきのあ『クララ白書』『アグネス白書』(原作:氷室冴子)
札幌の寄宿制女子校を舞台にした青春コメディ。もう基本すぎてアレなんで、『クララ白書』第2巻に収録されている「きらめく季節の贈り物」を推すという暴挙にでてみたい。
「恋をしたら、友だちや今まで愛していたものたちへの思いはどこへいってしまうの?川が押し流すの?川はまるであたしたちの時間のようだわ。流れて流れていつか海にたどりついて、自分の力ではとどまることはできない」
めるへんめーかー『丘の家のミッキー』(原作:久美沙織)
これはもう、原作者のコメント読むのがいちばんはやいでしょってことで、リンク貼っときます。ちなみにリンク先ページに田村セツコがイラストを手掛けている『若草物語』の画像が貼ってあるんですけど、これわたしも持ってるやつだーと思って嬉しくなりました。田村先生はいまでもサンリオの『いちご新聞』に連載をもっておられます。現役バリバリ。
久美沙織『創世記』 第11回「『おかみき』が教えてくれた“愛”に関しての深遠な問題」
宮崎駿『風の谷のナウシカ』
はい?と思ったそこのあなた、とりあえずクシャナ様の視点で読み直してみてください。
「クシャナのこともナウシカが教えてくれた。クシャナは深く傷ついた鳥だといった。本当は心の広い大きな翼をもつやさしい鳥だって」
大野安之『ゆめのかよいじ』
もういつのことだったか忘れてしまったけれど、奴股から教えてもらって以来、ずっと心に残り続けている作品。きっと時間ものと飛行ものは永遠のテーマなんでしょうね。栗本薫『ウンター・デン・リンデンの薔薇』を併せて読むと吉。
「なぜいとおしくときめくのに、こんなにもせつない?指の一本一本、髪のひとすじひとすじ、あなたのかさねあい、ふれあっているというのに。それはあなたのわたしの、時間の距離の遠さがあるから・・・すぐそこに見えているようで、埋めようもないほどに遠い歳月の差があるから」
おかざき真里『冬虫夏草』
倉橋由美子『聖少女』あたりから、三浦しをん『秘密の花園』に至るまで描き継がれてきた、「保護色の花々の中で一人夢を紡ぐ少女」の物語。ふたりなのにひとりという、自我の境界線が溶けあってひとつになるような感覚は、少女たちにのみ備わったものなのではないかと思います。
「くだらない大人、くだらない高校生活。性格の違う私達二人が、それでも仲がいいのは、その中でも自分が一番くだらないんじゃないかという苛立ちが共鳴するからだ」
くらもちふさこ『海の天辺』
ふつうよりもすこし奥手で目立たない少女が、先生を好きになっていくお話。メインはガッツリとヘテロ展開。なんですが、少女まんが読みにとっては避けて通れないというか。やっぱいいもんはいいですよね。今のいくえみ綾みたいなかんじで。そういやこないだヤンサン(だっけ?)に載ってた奥田民生とのコラボまんが読んで、不覚にもグッときた。うきゃー。
「あたしが1番最初にシーナを好きになったんだから!えんどーや河野みたいにえっち目的だけで近づいてくる男なんかより、ホントにシーナのことわかるのはあたしなんだよっ!シーナはおやじがいないから、男を美化しちゃうんだ」
須藤真澄『振袖いちま』
梨木香歩『りかさん』、内田善美『草迷宮・草空間』と併せて、ドール者兼業百合スキーは全員必読の書。
「いちまは今でも、こんなによくしてくださるお友だちがいるんですよ」
魚喃キリコ『blue』
ぶっちゃけ、より百合っぽいのは「color color」(『Water.』所収)なんだけれども(ボーイフレンズ・デッドにこの短篇をモチーフにした曲があったりなかったり)、なんちうかこう、痛い青春ものとかアドレッセンス黙示録へ過剰に思い入れてしまうわたしとしましては、やはりこちらを挙げてしまうわけです。
「濃い海の上に広がる空や制服や、幼い私達の一生懸命の不器用さや、あの頃のそれらがもし色を持っていたとしたら、それはとても深い青色だったと思う」
なるしまゆり『プラネット・ラダー』
「宇宙を滅亡から救うために選ばれた少女かぐやと狂皇子セーウ、そして生ける武器を操る勇者達、彼らの遙かなる旅路の結末は? 」というコピー通り、壮大なテーマのSF。いやー、かなりおもしろいですよ。なるしまゆりと明智抄はどれもイカレたキャラが大暴れするんで好きなんですけど、やっぱり百合的にバンビちゃんのいるこの作品が最高ですね。
「あの娘は私がもらうの。貴方にもあげない」
紺野キタ『ひみつの階段』『ひみつのドミトリー 乙女は祈る』
当時、野火ノビタが寄宿制女子校ファンタジーを描いているような作風に、脳みそバーン!ってなるぐらい衝撃を受けた金字塔的作品。百合的な気持ち良さという点で近似値の作品を挙げるとしたら、天野こずえ『AQUA』『ARIA』、あるいは志村貴子『青い花』かな。そのふたつは、まだ完結していないのでリストには入れていませんが。とにかく、画面の隅から隅までみなぎる少女的な質感にクラッときますね。「百合っぽいものを読んでみたいんだけど、まずどれを読んだらいいかな?」と訊かれたら、まずこれを推すことにしています。というわけで、未読のかたはぜひ読んでみてください。話はそれからだ。
よしづきくみち『魔法遣いに大切なこと 太陽と風の坂道』(原作:山田典枝)
07年6月あたまに放送されたNHK『中学生日記』の「初夏の朝」というエピソードが、「わたしはあなた、あなたはわたし」的な百合だったということで、ちょっとした祭りになったのも記憶に新しいところ。で、かつて中学生日記の脚本を手掛けていた山田典枝のつくる話はやっぱり中学生日記(登場キャラは高校生だけど)準拠というかんじで、そこへブチ込まれた百合エピソードが悪かろうはずがないでしょっていう。とはいえ全体のほんの一部にすぎないので、全編百合でないとイヤだという方にはおすすめできません。
「なに・・・?これ・・・ナミ・・・まさか・・・好きなの!?ナミ・・・あの転校生のことが・・・いや、やめて!!ナミ、ダメ!!言わんで!!私だけがナミを・・・!!」
こうの史代『街角花だより』
この世に女性原理というものがあるとすれば、こうの史代は見事にそれを描き出しているんじゃないかと思います。小さい頃、ローランサンの絵画に接してぼんやりと浮んだ印象は、お母さん的なるもの、としか言い表わすことのできないものだったのだけれど、この年になってようやくそれが女性原理であったことに気付いたわけです。そんな彼女が描く、女性の同胞意識でお腹一杯になってください。
「あー、いいのいいの。わたし好きな人いるから」
袴田めら『最後の制服』
いたずらまじょ子シリーズがコミック化されるというので、手を出してみたブンブンコミックス。で、ポプラ社だし、そんなにひどいものは引かんだろうと思って買ってみた『フェアリーアイドル かのん』が大アタリだったのに引き続き、まさかこんな名作をものしてくれるとは。今は亡きgekimoe.comの掲示板で、ナルチんに「『最後の制服』の単行本がいつ出るか知りませんか」などととんちんかんな書き込みをしたのも、いい想い出です。
「あたしに神様はいなくても、紡がいるからね」