百合物件リスト:短篇 その2

とくに目新しいものなどは挙がっていないと思います。ここの管理人がどういったものを偏愛しているかを知る指標程度にご覧ください。


こばやしひよこ「翼あるものよ その子に接吻せよ」(『ぴんくのひよこ』所収)
これはまぁ、ネタですね。ベルばらは基本ですけど、ロザリーがメインのパロディをあまり見たことがないので、つい。栗本薫×いがらしゆみこ『パロスの剣』のフィオナや、森薫『シャーリィ』のシャーリィもそうですけど、女主人へ献身的な愛を捧げるメイドさんとかね、すごく好きなんで。
「おかわいそうなラス・カル様――せめて、わたくしがずっとお傍に・・・」


岩館真理子「サヨナラの約束」(『まだ八月の美術館』所収)
『10年ぶりに東京から地元へ帰って来た「妹」のあゆ子。「お姉ちゃん」と彼女は自分を呼ぶが、実際は血のつながりはなく、一緒に暮らした期間も短いため「妹」という実感はうすい。車でお墓参りへ行く途中に、「妹」は屈託無く話す。通り過ぎるお店の話や、昔通った小学校の話。そして、小学校の図書館の話を。』(紹介文より)このラインナップのなかで、もっとも好きな作品。初めて読んだとき、あまりの美しさといじらしさとせつなさに、ボットボト涙した珠玉の作品。百合好きのあなたには、ぜひとも読んでいただきたい。
「たとえばこの白くてまあるい石。10年後の運命は?川の中?海の中?20年後のわたしたちはどこにいると思う?30年後のわたしたちはどんな風に吹かれてるの? / 誰にもわからない。それでもきみは言うんだね。サヨナラって」


高尾滋「散らない花」(『ディア マイン』第1巻所収)
単行本で挙げた『ゆめのかよいじ』と同じく、伝統ある女子校を舞台にした幽霊譚。とはいえゴシックな道具立てが他にあるでなく、ノスタルジーに浸らせてくれるでもなく。女の子の強さと弱さを同時に思い知ることのできる、美しい小品。四分の一スペースに書かれた「女の子同士のお話ってどうなんでしょう。私、好きなんだなぁー」も微笑ましい。
「好きな人のことを思う、勇気の姿を見てるのが好きだったよ。こんなふうにいられたら、私達にも生きて幸せになる、違う未来があったのかもしれないって・・・」


古屋兎丸「ユメカナ」(『Garden』所収)
たしか地獄少女 第二十五話だったと思うのだけど、闇の中で燃えさかる村を背にした閻魔あいの腿を血が滴り落ち、初潮を迎えたことが暗示されるシーンがありました。綾辻行人×児嶋都『緋色の囁き』でも、そういった描写が象徴的にちりばめられており、男性にとって、それらがいかに神秘的な光景に映るかを伺うことができます。この「ユメカナ」においては、初潮というより処女喪失の暗喩としてそういったシーンが配されています。そしてそれが、主導権の行方を左右するという具合。
「まあ、そんなこと言わず、仲良くしようよ。かな子ちゃん」


芳成かなこ「DEARさくらんぼ姫」(『DEARさくらんぼ姫』所収)
その昔、日本には月経を「穢れ」として忌む風習がありました。今でこそエロカワは肯定的なイメージとして定着しつつありますが、それでも好色そうなイメージを嫌悪する女性は多いといいます。商品としての性に同一化されることを拒むあまり、女性性じたいを忌避してしまう人もいます。それら自分の性にまつわる複雑な感情は、第二次性徴が発現する思春期にまず押し寄せてくるわけで、そのような時期に女性性を「いやらしいもの」として否定されることは、少女にとって相当過酷な重圧となることでしょう。「DEARさくらんぼ姫」は、いちどはその重圧に潰されてしまった少女が、幼なじみとのきれいな想い出を支えにしつつ、彼女の友愛を通して回復してゆくお話です。
「芙由子ちゃんは赤いスカートが好きなのね」


海野つなみ「百花繚蘭」(『回転銀河』第4巻所収)
さくらと知世の女子高生版を見ているような作品。親友への恋心を内に秘める美少女の沙季、彼女のすべてがいとおしくて、読んでいるとやったらテンションが上がります。とはいえ徹底的に報われない恋なんで、やっぱりせつなさ炸裂するんですけど。せつなさがもたらすカタルシスというか、同書の台詞を借りれば「泣くことでストレス物質が排出されるから落ち着く」的な効能はかなり高めだと思います。
「お姉ちゃん、彼氏のこと少し沙季ちゃんぽいって言ってた / そう・・・」


タアモ「少女のメランコリー」(『少女のメランコリー』所収)
牛田麻希×木村文『問題のない私たち』もそうだったけれど、外にいる大人には「とてもくだらないことで悩んでいる」ようにしか見えない少女たちが、いかにギリギリのサバイバルを強いられているか、ということについて考えさせられます。と言いつつ、そこで戦友のように手を取り合う姿にちゃっかり萌えるのが我々なわけですが。
「私も北原さんのこと好き!!」