夜の喫茶店
コミックよし子:土岐麻子のソロが良かったんで、今度貸しますわ。ついでにナイン・インチ・ネイルズも。
chibinova:どういう繋がりでナイン・インチ・ネイルズなのかと。
コミックよし子:おっと失礼、ジーザス・ジョーンズの方が好みでしたね。
chibinova:なんでやねん(笑い)。
コミックよし子:たまには、すごく自分の趣味と合わないものを聴くのもいいですよ。
chibinova:聴いたりしますよ。トランスとか。
コミックよし子:いいよな。トランス。姫トランスとか。
chibinova:でもねぇ、もうこの年になるとなかなか難しい。完全に固まってしまってるから。ていうか20代の頃、絶対30過ぎたら固まっちゃって色々聴けなくなるだろうから、いまのうちに無理してでもとにかくいろいろ聴いとこうと思って手当りしだいに聴いたのね。編曲家目指してたし、オールラウンドに対応できなきゃ厳しいだろうと。なんかそれがよかったのかな。受けつけなくても、系統樹のどのあたりに位置するのかはだいたいわかるし。ま、おかげさまで編曲のスキルはそれなりに評価してもらえるようになったんだけど、けっきょく音楽家としての評価には繋がらなかったですね。もう引退しちゃったし。
コミックよし子:逆に俺は今が一番何でも興味持てるよ。昔録ってもらったカセットテープ、今一番重宝してる。この時代にウォークマンで音楽聴くのは至福やね。ヒスノイズ気持ちいいわ。サーっていうの。いいね、めちゃくちゃ音こもってて。たださすがに50年代のポップスはダメだわ。地味すぎて。
chibinova:そんなの入れてたっけ?
コミックよし子:いや、個人的に集めただけ。
chibinova:ポップスの黄金時代は60年代以降だからねぇ。
コミックよし子:ヴァン・ダイク・パークスとか。そういえば、一昨年に出た『スマイル』聴いた?
chibinova:いや、聴いてないけど。また出たんかいな。
コミックよし子:正真正銘ってことで、ブライアンのソロ名義で出た。
chibinova:ああ、そうなんや。それはゲットですね。
コミックよし子:そのアルバムの背後にある物語を知ってるだけに泣けた。なんで評価されなかったんだろうねえ。
chibinova:いやぁ、やっぱアメリカでは英雄なんじゃないの。ただビートルズの影に隠れちゃったからねぇ。あれが大きすぎたんだね。
コミックよし子:同時代、『ペットサウンズ』は誰も見向きもしなかったんでしょ。
chibinova:売り出し元のキャピトルがイチャモンつけたんじゃなかったっけ。
コミックよし子:そうらしいねえ。バンド仲間にも不信感もたれたり。そういう物語とポップスっていうのはどうしても切り離せないモノなんじゃないの?
chibinova:ロックには悲劇ちうドラマツルギーが必要だなんて説もあったねぇ。
コミックよし子:必要かどうかはわからないけど、どうしてもつきまとうよね。
chibinova:反逆の音楽だからじゃないの。
コミックよし子:ロックって反逆なんだ。確かにU2とかピストルズとかボブ・マーリーとかはそんな感じかも。
chibinova:いやー不良の音楽だったでしょ。髪長くしてドラッグやってエレキ大音量でかき鳴らして。
コミックよし子:ロックって、単なるポップスの一様式だと思ってたわ。反逆ってことは、つまりプロテストソングってことでしょ。
chibinova:『プロテストソングス』ってアルバムあるな。プリファブ・スプラウトに。パンクなんかはどうなんのさ。
コミックよし子:いや、まあ確かにパンクは反逆だったんだろうけど。マスにセルアウトされたものへのカウンターだったんじゃないの。
chibinova:マスにセルアウトの権化がマルコム・マクラレンなわけですが。
コミックよし子:マルコムとピストルズの関わりはよく知らないんだけど。
chibinova:もともとキングスロードでヴィヴィアンを売っていた服屋なのよ。で、客のなかからそれっぽい奴をピックアップして、ドールズとかストゥージーズみたいなバンドをつくろうとピストルズをでっちあげたってのが定説だけど。
コミックよし子:大した人だよね。
chibinova:トリックスターではあるね。
コミックよし子:確かに商魂逞しかったんだろうけど、確かな才能があったんじゃないの。大体俺はセルアウトされたものの方がどっちかといえば好きだから。
chibinova:売らん哉、でつくられたものが必ずしも売れるわけじゃないしね。
コミックよし子:昨今のアメリカのインディーロックとかよく分からんからなあ。でも、日本もすごいよね。どう考えてもキツイようなものばかりが売れる。
chibinova:小室とかさ、どう考えても売れる要素ないんですよ。すごくマニアックなことやってんですよ。まったく背景がみえてこないという点で。
コミックよし子:小室は完全なるオリジネイターだね。アジア各国に浸透したんだから。そういう意味じゃユーミンもオリジナルな人なのかな。
chibinova:あの人はウエストコーストサウンド全盛のニューミュージック界に、ヨーロッパ的な哀愁を持ち込んだんだよね。フレンチとかすごい好きだったみたいで。
コミックよし子:でも、ものすごくアレンジが日本的なんだけど、その辺上手いんだね。
chibinova:それは松任谷正隆の手腕でしょ。たしかツアーでバックやってたのスクエアだし。
コミックよし子:陽水とか、山下達郎とか大滝とか細野晴臣とかは、まんま洋楽っぽいから背景が見えやすい。
chibinova:まんま洋楽っつうか、やっぱアメリカンなんですよ。イタロやフレンチ、スパニッシュみたいなラテン系の情緒って日本のそれとすごくよく似てる。ポルトガルのファドなんか思いっきり演歌やし。
コミックよし子:それを思えば、中島みゆきなんかは分かりやすいね。日本って感じがする。
chibinova:われわれはやっぱり日本人だから、とくに日本的なものに対する嗅覚ってのがいちばんよく利くわけですよ。
コミックよし子:昔さ、日本人は洋楽を誤解してGSとか、そういうのができたじゃん。韓流ポップスなんかは、Jポップを誤解して出来たんだと思うんだ。それと同じように、今の若いバンドなんかも、ミスチルとかしか聴かずに育つと韓国っぽくなるのかもしれないね。
chibinova:レゲエができたのは、受信状態の悪いラジオでアメリカのR&Bを聴いて誤解したためっていう有名な説もあるしね。そういうことも踏まえてか踏まえずか、おれはいまオタソング一筋なんですよ。そういう耳でオタソングを聴いていくとどうなるのか、っていう。
コミックよし子:オタソングはいいよ。分かりやすいから。音大っぽいというか、自分が通ってきたものを素直に反映してる感じ。
chibinova:オタソングはねー、やっぱ声が安心できるかんじなんだよね。なんだかんだいうてかわいい声がいちばん好きなんで。
コミックよし子:可愛い声っていうだけだったら、世界中にいくらでもあるんじゃ?たとえばムームとかって好き?
chibinova:いいねぇ。双子姉妹ってところで評価3割増しやね。
コミックよし子:今日新しいシングル買ってきた。かなりロリ心くすぐるよね。
chibinova:やばいね。おれもこないだペイシェンス&プルーデンスのベスト盤を買ったな。
コミックよし子:nizaって人のもいいよ。フレンチ版のトミー・フェブラリーって感じ。
chibinova:お、それ知ってるかも。店でかかって気になっててん。
コミックよし子:可愛い声は最強ですよね。
chibinova:人類の至宝ですよ。
コミックよし子:ジョン・レノンも素直に可愛い子と結婚すれば、あんな変なソロ作らなくて済んだのに。
chibinova:わざわざ嫁と別れてくっついたんだし、ジョンの美意識ではヨーコの方がかわいかったんだよ。
コミックよし子:そこがすごいよね。大体ビートルズが解散したのもヨーコのせいなんでしょ?まあ、ジョンがまともにバンドなんかできるほど民主主義とも思えないけど。
chibinova:どこまで実話かわからんけどね、けっきょくずっとわだかまっていた確執をヨーコひとりに押し付けただけかもしれないし。たぶん、スチュと別れてからジョンはずっと満たされなかったんだよ。それがポール的には気に入らなかったんじゃないの。「おれじゃダメなのかよ!?」みたいな。
コミックよし子:大変だっただろうね。リンゴはともかく、ジョージはもっと大変だったんじゃ。
chibinova:奴はインドで神秘体験して、あっち側の人になっちゃったから別にいいんだよ。
コミックよし子:そうなんだ(笑い)。バンドは仲悪い時の方がいいもんできるのかもね。
chibinova:まぁそうかも。やっぱりもの作らせてくれるのはハングリー精神とか怒りだもん。
コミックよし子:ストーンズとか、よくあれだけ一緒にやってるよね。仲悪いのに。
chibinova:そんなこと言い出したらお笑いだって同じでしょ。
コミックよし子:あーそうやね。まあ、ミック・ジャガーって妖艶だもんね。ゲイ的な魅力はあるよ。長いことやってるギャルバンは少年ナイフと赤痢くらいしか思いつかないな。あとはさかなか?
chibinova:なんかデヴィッド・ボウイとミック・ジャガーのやおい本を何冊か持ってるんですが。さかなは男女デュオ。そうねぇ、あとは黒百合姉妹とか。
コミックよし子:なんでボウイとミックやねん。やるんだったらキース受けミック攻めだろうが。
chibinova:すごくメジャーなカップリングなのよ、ジュネ系では。なによりお耽美的に絵になる。そういや2年ぐらい前にあるイベントでDJしてたら、赤痢のモアイちゃんが出てきてさ。セーラームーンのコスプレしてグラインドコアやってた。
コミックよし子:うへえ。キースはツンデレだから、いい感じだと思ったんだけど。ボウイはいいよね。あんなスターはもういないんじゃないかな。男が見ても濡れると思う。初めてTVで見たときはドキドキした。あんなにカッコいい人が中性的で、しかもカッコいい音楽やってるんだもんね。最高だよ。フレディ・マーキュリーももうちょっとルックスがよかったらな。漫画に出てくる2丁目のオカマのイメージはフレディが作ったんじゃない?
chibinova:ブルーオイスターなハードゲイね。ポリスキャップとか被った。
コミックよし子:そうそう(笑い)。
chibinova:オカマちゃんの有名人って多いよな。
コミックよし子:美輪明宏とか?
chibinova:ピーターとかカルーセル麻紀とかおすぎとピーコとか。
コミックよし子:女性の男装芸人っていないよね。
chibinova:そういうのは全部タカラヅカが引き受けてますから。
コミックよし子:あれはやっぱり、百合的世界なの?
chibinova:ほとんどのお客さんは自分が「男装の麗人」に惹かれていることを自覚してるみたいだよ。
コミックよし子:やっぱり百合願望ってあるんだね。そういえば、男ヲタは結構な確率で女装少年好きなんじゃないの?
chibinova:あー、わりと多いね。やぶうち優の「少女少年」シリーズが当たったりしたし、エロゲにも女装少年キャラが当たり前に入ってたりするし。
コミックよし子:日本人にはジェンダートランス願望があるんだね。
chibinova:そんなの世界中にあるって。
コミックよし子:ああ、ドラッグクイーンとかか。
chibinova:おもしろいのは、百合がもっともはやく受け入れられたのがスペインとかフランスとかラテン系のカトリック諸国なんだよ。向こうではshoujo-aiと呼ぶんだけど、ウテナ以降爆発的にそういう人口が増えたみたい。もちろんそれらを支えているのは「真っ当な少女漫画好き」を自認する少女たちだったりする。
コミックよし子:へえ〜。まあ、俺も百合な世界には惹かれるしね。
chibinova:ぶっちゃけやおいの方が引きは強いんだけどねぇ。
コミックよし子:お耽美の度合いが全然違うからじゃないの?百合だと、月9にも馴染むようなコメディになるうる感じ。
chibinova:たとえば、おれにとって『赤毛のアン』は120%百合なんだけど、でもアンとダイアナがいるだけではやっぱダメで。グリーンゲイブルズの自然があって、お話創作クラブがあって、マリラとおじいさんの名前忘れたけど、がいて、あと牧師夫人とアンの関係もガッツリ押さえたいし、小学校の先生も女の先生がくるっつうんで舞い上がるアンはやっぱり百合っ娘なわけですよ。
コミックよし子:なるほどね。十分求心力がありそうな世界観なんだけど、エロくはないかな。百合ってエロさが足りないのかな。ああ、だからふたなりなんてものが開発されたのか。
chibinova:ふたなりねぇ・・・あれはダメだ。
コミックよし子:どうダメなの?なんか割と流通してる感じがするけど。
chibinova:いや、あれを「百合だ」と言われると「違うでしょ」ってだけで。好きな人は好きで別にいいんだけど。
コミックよし子:なるほど。百合じゃないんだね。あれはただのコメディなのかな。
chibinova:半陰陽の設定だったら『夢使い』の1巻とか、ああいうのがいいな。
コミックよし子:『夢使い』の1巻は別格でしょ。あれは、かなりグッときたよ。だからさ、エロいだけのエロゲもNOといいたいけど、『臭作』くらい作りこんでくれたら、何もいえないな。かなり面白かった。ゲームだよね。ちゃんと。
chibinova:いま『Rule of Rose』っていうゲームやってて。基本はアドベンチャーなんだけど、アクション要素もあるから下手なおれにはなかなかきついわ。
コミックよし子:いま公式サイトみたけど、面白そうだね。ゴシックホラーやね。しかし普通にDSで犬かってる俺は、完全にサブカルを卒業したみたいになってる。読んでる漫画もゴラクとかだし。
chibinova:ゴラク>>>>>(超えられない壁)>>>プレイコミック
コミックよし子:プレイコミックって知らないな。ゴラクやアクションは有名な作品多いやん。でもプレイコミックなんて聞いたことないぞ。
chibinova:こうの史代ってアクションだっけか。プレイコミックほんまやばいねん!
コミックよし子:へえ〜。まあ読んでみますね。『コミックハイ!』はちょっと好き。
chibinova:『女子高生』と『つぶらら』と『ひとひら』は単行本買ってるよ。こないだラーメン屋の順番待ちしてる列のなかに、『つぶらら』の単行本を読みながら笑ってる作業員風のオヤジがいてさ。はたから見ると、おれもああ見えるのかってちょっと思った。
コミックよし子:山名沢湖はいいね。門井とかも。
chibinova:門井って門井亜矢?下級生の原画描いてた。
コミックよし子:うん。好きっすよ。
chibinova:漫画家やってるんやね。こばやしひよこもすっかり漫画家やもんなぁ。
コミックよし子:『コミックハイ!』を買ったきっかけは、森永みるくを森園みるくと勘違いして、「なんでこんなところにみるくが!?」っていう好奇心から。森園みるくってゴスだよね。
chibinova:森永みるくもいいよ。『くちびる ためいき さくらいろ』いっぺん読んでみ。やばいから。
コミックよし子:『くちびる ためいき さくらいろ』ね。おお、これ良さそう。今amazonで森永みるく買いました。
chibinova:はやいなおい!
コミックよし子:なんか一緒に買わないと送料無料にならないな。もっと青田買いみたいなのない?
chibinova:『青い花』か『ひみつの階段』か『最後の制服』かな。
コミックよし子:『ひみつの階段』って『センチメントの季節』みたいなもん?
chibinova:全然違うなぁ。絵柄はちょっと近いけど。女子校が舞台のファンタジーもん。
コミックよし子:須藤真澄みたいなもん?
chibinova:じつは初めて須藤真澄を読んだ時、絵のうまくなった川原泉みたいと思った。
コミックよし子:よし、紺野キタ買ってみるわ。BL上がりなんだね。『乙女は祈る』も気になるな。
chibinova:『ひみつの階段』の番外編やね。
コミックよし子:『ダークシード』は?
chibinova:それもいい。最新作やな。
コミックよし子:まあ、俺ももう28だけど、ようやくポピュラー音楽の全体像がうっすらと見えてきた感じ。また色々教えてよ。
chibinova:もう教えることは何もない。あとは自分の足で歩いていくがよい。
コミックよし子:なに仙人みたいなことを(笑い)。ぜんぜん関係ないけど、ボブ・ディランの新作、めちゃくちゃいいよ。ここにきて、『ハイウェイ61』と遜色ない出来だよ。えげつない。隠居感ゼロだからなー。若いバンドがディランにセールスで負けてるんだもんな。
chibinova:単純にまだやってるってのがすごいね。
コミックよし子:すごいよね。ユーミンもそうだけど、オリジナルアルバム30枚越えてるっていうのが。
chibinova:なんか人に歴史ありっていうか、こういう表現が適切なのかどうか微妙な用法ですが。
コミックよし子:そうそう、なんで日本じゃストーンズやビートルズは人気あるのに、キンクスやフーはダメなの?
chibinova:ピート・タウンゼントがペドだからじゃね?
コミックよし子:そうなんだ。キンクスはもっと人気無いよね。
chibinova:そうか?まぁフォロワーもコレクターズぐらいしかぱっと思いつかないけど。でもモッズ系には安定した人気があるし。
コミックよし子:JAMはもっと人気があるよね。
chibinova:そりゃウェラー人気だろ?
コミックよし子:まあ、そうだけど、スタイル・カウンシルよりはJAMなんだと思う。しかしAMAZONで「JAM」で検索すると、アニソンばっか出てくるな。さすがにJAMプロジェクトとかは聴かないし。日本人にとってJAMといえば、アニソンでジュディマリで最後にウェラーなんだね。セールス順に検索するとそうなる。ジュディマリの次はパールジャムだった。
chibinova:むかし『サブリナ』っていう魔女っ娘ドラマがあったんだけどさぁ。サブリナの彼氏だったかがクリスマスプレゼントかなんかでパールジャムのコンサートチケットをプレゼントするって話があってね。なんかアメリカだなぁと。
コミックよし子:(笑い)。じゃあそろそろ寝ます(ニルヴァーナ聴きながら)。
chibinova:寝る前に自家発電する?
コミックよし子:オカズは?
chibinova:ニルヴァーナ。
コミックよし子:無理。