貴族の階段

貴族の階段 (岩波現代文庫)

貴族の階段 (岩波現代文庫)

『萌える日本文学』(堀越英美)の百合編にて紹介されていた小説。土台となった「萌える文学 ロリロリ篇 - マリア様がみてるファンに」でも、「貴族院議長を父にもつ17歳のクールビューティ・氷見子、氷見子を「おねえさま」と慕い、恋焦がれる可憐な美少女・節子、氷見子の兄で美しい容貌と優しい性格を持つ見習士官の義人、理想に燃えるK少尉。二・二六事件を背景に、貴族と軍人の欲望バトルを氷見子の一人称でドラマティックに描く」という具合に紹介されています。あと、「節子に告白された氷見子の返答「では節子さんは、私のパンツをお穿きになるの?」からしてすごいが、それに「……ええ、それはもうパンツでも、なんでも、おねえさまの物なら」と答える節子もたいがいだ」とかね。このパンツうんぬんのやり取りは、ふたりが映画『制服の処女』の話をしていた流れでね、主人公の少女が先生から贈られた下着を宝物にするエピソードからきてるんです。1959年には映画化もされているんですね。

226事件を背景にした華麗な貴族ドラマ! と言っても、226事件がどうのこうのというのは添え物のような感じで、やはり見どころは貴族の乙女たちの生活っぷり。百合的と言いますか、ベルバラ的と言いますか、、とにかく乙女趣味な作品でした。原作は、1951年に書かれた、武田泰淳の『貴族の階段』。本の装丁が、何ともまぁ、(似非)貴族的。(略)それから、やっぱりお家が素敵なんです(貴族だから)。もちろん、ちょっとしたロココ調です。白いマントルピースがとにかくロマンティック。まぁ、パッと見、ラブホ風なんですけど・・・。一番感動的だったのは、氷見子のベッドが真鍮のパイプベットだったこと。いや、この映画の美術係はよくわかっていると思いますよ、乙女心を。やっぱり乙女のベッドは真鍮ですよね。
放蕩娘の縞々ストッキング β : 2005年 04月 24日【映画】『貴族の階段』

み、観たい! それはさておき、あとがきによると、戦争末期に亡くなった妹・真百合の日記の発見が、氷見子というキャラクターを発想する直接の機縁となったそう。ということは、美しい容貌と優しい性格を持つ兄の義人は、ひょっとして作者自身・・・だったりするんでしょうか。ぶっちゃけ、百合的というにはあまりにもエス的すぎる内容でしたので、百合目当てで読むのは少々キツいかと思われますが、堀越さんも萌え台詞として採り上げておられる「精力のありあまった男たちにとって、蹶起(けっき)するのは、射精するのと同じことだ。気が遠くなるほど、いい気持なのだろう。だが、理想の革命を成就し、完全な新国家をつくりあげるのは、思いどおりの顔と心をもった赤ん坊を、数かぎりなく生むのと同じくらい、むずかしい(ほとんど不可能な)事業なのだ。どんな男だって、瞬間的な恍惚のあと、だらだらとつづく精虫の運命のめんどうを見てやるのは、めんどうくさいのだ」といった物言いにグッとくるかたにはかなりおすすめ。その昔、母から薦められて読んだ犬養道子の『花々と星々と』(森茉莉好きにもかなり響くはず)と『ある歴史の娘』(五・一五事件絡みはこちら)を読み返したくなりました。