カレンダー・ガール

1. 第2回「没落貴族〜ein herbstadlig〜」にて、DJとPAを務めてまいりました。すごく疲れたけれども、おもしろかったです。シモーヌさんも「楽しいイベントね」っておっしゃっていたらしいのでひと安心。シャルル・アズナブールの「イザベル」を、幼馴染みに恋してしまう内容の百合ソングにアレンジした、個人的には小島麻由美の「あの娘の彼」と双璧をなす神曲をご本人の前でかけたかったのだけれど、音源が見当たらずに断念せざるをえなかったのは残念でしたけれども。そんなわけで、わたくしめの主催いたします「princesse de la nuit 〜お姫さまナイト〜」まであと2週間となりました。詳細は「2008-08-04 princesse de la nuit 〜お姫さまナイト〜」にてご確認いただけます。みなさま、ぜひぜひ予定を空けておいてくださいね。


カレンダー・ガール (新潮文庫―タルト・ノワール)

カレンダー・ガール (新潮文庫―タルト・ノワール)

失踪者捜索の依頼をうけ、NYの高級カジノに潜入したレズビアン探偵サズ・マーティン。そこは、全員そろってブロンド、目は茶色の妖艶なホステスたちが蠢く淫靡な秘密クラブだった。謎の女“セプテンバー”を追うワーカホリック女探偵の体当たり捜査が始まる! 女同士の切ないまでの肉欲と愛憎に絡みつく非情な組織の掟とは? ―自身もレズの作家、本領発揮のディープな心理劇。 (版元の紹介文より)

2. ミステリやサスペンスとして読むとちょっと物足りないのだけれども、この作品というか作家の本領が発揮されるのは、その風俗描写においてではないかと思います。すこし前にこのブログで『ゲイ・マネーが英国経済を支える!?』という本について触れましたが、作中ではロンドンで暮らすレズビアン、そしてそのコミュニティ(作者によると、レズビアン・シーンとコミュニティはまるで別物なのだそう)の様子が生き生きと描かれており、間接的にではありますが、彼女たちの暮らし向きや考え方に触れることができます。『ハイ・フィデリティ』のレズビアン版、といえばだいたいおわかりいただけるでしょうか。なんでも作者自身、ロンドンで劇作家や舞台女優もこなすレズビアンなのだとか。たとえば登場人物のひとりであるドローレスの人となりを説明する文章は、こんなかんじ。

ドローレスはときどきテネシー・ウィリアムズを気取るが、普段はガートルード・スタインを気取っている。ちなみにわたしは料理は大の得意だが料理本は大嫌いだからスタインのパートナーが書いた料理読本も読んだことはない。ドローレスはカトリックの母親と過激な社会主義者である父親の間に生まれ、スペイン内乱で共産党の指導者として活躍したドローレス・イバルリにちなんで名づけられた。やがて父親は去り、母親が女手一つでドローレスを育てた。ドローレスは二十八歳のときに父方の祖母に会った。そして祖母がユダヤ人であることを知った。そんなわけでドローレスは純然たるユダヤ人ではなく、祖母もユダヤ教の祝祭日の名前を覚えている程度で日付までは気にしていなかった。怒りっぽい偏屈なばあさんだったが、そんなことにおかまいなくドローレスは自ら選んだ宗教を熱心に研究した。彼女がこれほど夢中になったのは、レズビアン作家のリタ・メイ・ブラウンの初期の作品くらいのものだ(ブラウンがマルチナ・ナブラチロワとつきあい始める前の作品ということ。ドローレスは運動も汗をかくのも大嫌いだ)。あの悪評高い「神よ、女に生まれなかったことを感謝します」という祈祷文を見つけたときには、さすがに彼女のユダヤ教熱も少しばかり冷めた。今では祝祭日を祝い、旧約聖書のルツ記を研究する程度にとどめている。

個人的に、準主役のカップルがヨークシャー旅行へ行き、ブロンテ姉妹の牧師館やシルヴィア・プラスの墓を巡るシーンがとくにお気に入り。「マドンナがk.d.ラングとカントリーを歌ってるレコード」なんてジョークにもニヤニヤさせられたり。


3. 『ブルータス』9月号にてJ-POP特集というのをやっていたので目を通してみたところ、おもしろい記事がたくさんありまして。なかでも目を引いたのが、映画『グーグーだって猫である』の主題歌をデュエットした細野晴臣小泉今日子の対談だったんですけども。なんでも細野氏、近著のなかで「59年間書くことのなかったラブソングを、今後は書こうと思う」というような発言をしているらしく、その一因となったのが「難解な乙女心」にあるようなのです。というわけで、そのあたりを抜き書きしておきました。

細野:最近、乙女心ってのが気になってて。僕はそんなに男っぽい人間じゃないと思ってたんだけど、やっと乙女の心というのを知るに及んでね、いかに自分が男の子っぽく生きてきたかってのがだんだん分かってきて。女性の謎ってのがやっと最近・・・。
小泉:うふふふふふ。
細野:ホントに謎。
小泉:どんな老女でも少女の心、大事にしますからね。どんな人でも絶対ここに、頑なに守っているものがありますからね。
細野:そうなんだよね。朝崎郁恵さんという72歳の奄美出身のシンガーの方も、この間初めてお会いしたらやっぱり乙女でした。まあ、乙女心は分からないってことが、分かったところですけどね(笑)。

や、この歳になってこんなことを言い出せるハリー細野ってやっぱすごいなと。天然と天才は紙一重、っていうかほぼ同類なんだなぁ。