ビリティスの歌


このあいだ、「ギリシアで百合といえば?」というツイッターのポストに呼応して貼った絵画。ゼウスがアルテミスの姿に化けてカリストーをたぶらかしているところですね。ギリシアといえば"プラトニック"の語源となったプラトン少年愛が有名過ぎて、なんとなく801っぽさ先行のイメージがあるかもしれません。そこで、さらにふたつほどギリシア百合をご紹介しておきたいと思います。まずはピエール・ルイスの『ビリティスの歌』。レスボス島のサッフォーをイメージして描かれた詩歌なんでありまして、百合っつうかレズビアニズムの祖みたいなもの。中世修道女の同性愛事情とあわせ、必ず押さえていただきたいです。

この『ビリチスの歌』の主人公ビリチス(ビリティス)は先述のギリシャの女性詩人サッポー(サッフォー)の存在を識っていた(ビリチスの誕生は紀元前6世紀初頭とされている)。また、父の存在を知らぬ少女ビリチスは同じ年頃の少女ムナジディカとの悲歌を30篇程残している。彼女は美徳も悪徳も備えていたけれど、美徳しか知りたいとは思わないとも(全てピエール・ルイスによる創作なのに)。そして、年老いたビリチスが幼き少女時代の清純、成年期の濃艶な同性愛、後期の頽廃した遊女生活を回顧し、思い出を伝記として綴ったもののようなお話。まるでギリシャの女流詩人ビリチスがサッポーのように存在したかのように想えてしまう...実に素晴らしい☆
クララの森・少女愛惜 - 『ビリチス(ビリティス)の歌』 ピエール・ルイス:PIERRE LOUYS (訳:鈴木信太郎)

上記はわたしの師匠が書いた、詳細かつ遊びのある『ビリティスの歌』についての記事です。「『ビリティス』(デヴィッド・ハミルトン監督)」「『サッフォー(サッポー)』レスボス島の女流詩人 画:テオドール・シャセリオー」の方もぜひご一読を。

続きましては「2008-02-21 ペンテジレーア」にても言及しましたアマゾン。こちらも世界最大の河川や通販サイトの名前として有名になり過ぎ、もともとは「女性だけで構成された古代国家」という、まるで昨今の萌えアニメのような国の名前であったことが忘れられがちですね。アマゾンについてはテレンス・ヤング監督の映画『アマゾネス』を観ていただければなんとなく雰囲気は掴めると思うのですけど、お色気アクションの娯楽作品として作られたものゆえ、参考程度にとどめておかれるのがよいでしょう。で、百合の話に戻しますと、トロイア戦争で華々しく活躍しながらも悲劇的な末路を辿ったアマゾン国の女王ペンテジレーアと、彼女につき従う12戦士のエピソードほど萌え上がるものはございません。

崩壊寸前のトロイアを救うべく、いずこからともなく駆けつけ、強大なギリシア軍と真っ向から戦った軍団があった。その軍団の名はアマゾネス軍団。12名の女だけの戦士で構成されていた最強の軍団であった。 彼女たちの勇気は男顔負けで、しかも全員が並外れた戦闘力を持っていた。馬を乗りこなす技術は驚異的で電光石火、敵陣深く突っ込んで相手を撹乱する。剣を使えば、猫のように敏しょうで、瞬時に相手の死角に入り込み攻撃して来る。矢を射れば、空を舞う鳥の目さえ射ぬくことが出来た。この無敵のアマゾネス軍団を率いたのは一人の美しい女王であった。その名をペンテシレイアと言った。彼女ほど 、あらゆる武術に長け、誇り高く、気高い女王も他に類を見ないだろう。戦いでは、常に先頭に立って軍団を率い、7たびもギリシア軍の執拗な波状攻撃を撃退したのである。そればかりか、敵陣深く斬り込み、多くのギリシアの英雄をなぎ倒しさえした。ペンテシレイアと12名の気高い女戦士たち。この美しい美女軍団をトロイの人々は歓喜の声で迎えた。防戦一方のトロイア軍にとっては、まこと頼もしい女神の援軍であった。巨大な城門が開かれる時、人々の期待に満ちた視線の先には、常に黄金の兜をかぶり、栗色の髪をなびかせ、微笑みながら誇らしげに出陣してゆくアマゾネス軍団の姿があった。ペンテシレイア率いる12名のアマゾネス戦士に、今やトロイアの人々の心はすっかり魅了されていたのである。人々の彼女たちにかける期待はいくばくのものであったことだろう。
不思議館 - アマゾンの女王〜ギリシア神話に語られるペンテシレイアの伝説〜

もうお察しの方もおられるでしょうが、このペンテジレーア率いるアマゾン軍をモデルにした有名な作品が、かの『美少女戦士セーラームーン』です(なぜか月の女神であり処女神のアルテミスがオス猫になっていましたがw)。ね、興味出てきたでしょ。で、さらに深くアマゾンを知りたいという方にうってつけの作品が、現在コミックスピカで連載中の『エリュシオン 青宵廻廊』。トロイア戦記をアマゾン国メインで描いているもので、古代史の勉強にもうってつけかと。あの『やじきた学園道中記』の市東亮子さんが描かれている作品といえば「あ〜」となる方も多いかと思われます。期待にたがわずバッチリやらかしてくれていますよ。女体化三国志とか読んでる場合じゃないですねこれはw

あとサッフォーやアマゾンの女王関連でナタリー・バーネイにも言及したいし、『ナルニア国物語』で有名なC.S.ルイスの『愛はあまりにも若く―プシュケーとその姉』も姉妹属性にはたまらん作品なのですが、眠いのとしんどいのでただ挙げておくにとどめておきます、すいません。